パブさえあれば


pub


腹が減ればパブ、のどが渇けばパブ、○○がはずめばパブ、とりあえずパブさえあればイギリスでは生きて行ける。
しかし正直いって、ほとんど酒だけのパブは私にとって居心地が良くない。もうもうたる煙草の煙やビリヤードのプール、ちょっと目つきの鋭い男達などのたむろす場所は入るのに勇気が必要だ。

一口にパブといっても、まったくの酒場といったところから、いろいろな食事も作ったり、立派なレストラン併設、はては宿泊施設まで付いている所まである。大都会ではさなざまなレストランやファストフード店などが豊富なのでちょっとしたスナック程度しか提供できない所が多い。必然的に食事目的でははずれが多いがちょっと郊外まではずれるか、田舎に行けばこういった”使える”パブが沢山有って助かる。

ゆっくりと食事の出来る所か、そうでないかを見つけるのは簡単だ。ちゃんとした厨房を持ち、料理に自信の有る店はそれをアピールするために、店の前にボードを立てるか壁に掛け、チョークやマーカーでカラフルにお品書きを描き込んである。これが又うまい。さすがにアルファベットの歴史の長い国だ、若いおねえさんなどがまことに見事にデザインしているところは見ていて楽しい。

もともと私はビール党なので食事にはいつもビールを欠かさない。ワインも悪くはないが、先ずビール、それもパブで頼むなら絶対ビターだ。もちろん、暑い日にカラカラに乾いた喉にはラガーが一番という説には意義は唱えない。しかし、そんな日は少なくしかも夜になれば、あの苦みと芳醇な香りが私を誘い、いつも頼むのはビター!そう、軟弱な私は郷に従ってしまう。
よく生ぬるいと言われ日本では評判が悪いようだが、ラガーと同じように冷たくしてしまうとあの苦みと香りが死んでしまう。やはり10℃から12℃くらいが適温のようで、どこにいってもそのくらいでサービスされているようだ。しかもピルスナータイプのようにたっぷりと泡は作らず、2対8あるいはそれ以下にとどめてある。これをググッとは飲まずチビリチビリやってると、「どうだうまいか?」、「どこから来た?」などと話が始まるわけだ。

ところで、このビター、こちらでは、少なくとも私の周りでは売ってない。たまに輸入ビールのコーナーであやしげなエールやビターの名前の缶ビールを見つけて買ってくるが、どうもというかまったく別物だ。で、国内産でも少し前にハーフアンドハーフというのが各社から発売になったのを皆さん覚えてらっしゃるだろうが、私も小躍りしつつ買ってきて飲んでみてがっかり。ただの薄めたスタウトで苦いばかりの品物だった。たぶん皆さん同じように思ったんでしょう、いつのまにか市場から消えてしまった。

先日、いつものように酒屋をぶらぶら品定めしているとギネス社のビターなるものが、有名なスタウトと一緒に少量並べてあった。これはと思い、さっそく1ケース買い込み試してみた。暑い日本のこと、そのままではあんまりなので、まず普通に冷蔵庫で冷やし、次いで、外に置きっぱなしで待つこと約20分、グラスにそそぎ、恐る恐る飲んでみると・・・う、うまい!これだ、この味だと女房も呼んで一緒に飲みながら空き缶を見て驚いた。缶の中でカラカラ音がする。何かと思って開けてみると厚み1.5センチ程の円筒形の容器が出てきた。そしてあらためて缶の横を読むと、この製品にはヘリウムによりきめ細かな泡を作り出す旨記入されていた。なるほどどうりで口当たりが良かったわけだ。これからは欲しい時にはいつでもビターが飲めるななどと満足した。
後日、あの時の箱を開けてしまったので、再び買いに行ってみたがすでに影も形もなかった。有るのはスタウトばかり。店員さんに聞いてみると、そんなもの置いてましたかなんて間抜けな返事をするばかりだ。結局日本にはビターは定着することはないのだろうか。それともあれは幻だったのだろうか?ああ、パブさえあれば・・・。


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